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横浜地方裁判所 昭和63年(わ)1101号 判決

本籍

神奈川県鎌倉市雪ノ下一丁目三九四番地

住居

横浜市磯子区磯子六丁目四〇番三 ランオンズマンション磯子山王台二〇三号

会社役員

渡辺昭雄

昭和二四年一一月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官淡路竹男出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和五八年一〇月から横浜市中区山手町七三番地の六所在の寺田マンションに、また、昭和六一年八月から昭和六三年一月までは同区根岸旭台三七番地の五所在のルミネ根岸公園に居住し、東京都渋谷区道玄坂二丁目一七番三号所在のSGビル二階において喫茶店「ゼロ」(昭和五八年一一月開店、昭和五九年四月ころによりゲーム喫茶に変更、同六二年一月中旬閉店)を、同区道玄坂二丁目二〇番三号所在のモンテ道玄坂ビルにおいて、ゲーム喫茶「ホールド」(昭和六〇年四月ころ開店、昭和六一年五月閉店)を、神奈川県横浜市中区福富町東通三八所在の福井ビルにおいてゲーム喫茶「BX′」(昭和六〇年一〇月開店、昭和六一年一月ころ閉店)を、東京渋谷区字田川町三二番地六所在の長崎ビル六階においてゲーム喫茶「シャッフル6」(昭和六一年四月ころ開店、同年七月閉店)を、同ビル三階においてゲーム喫茶「ウイン」(昭和六一年七月開店、昭和六二年四月二四日閉店)をそれぞれ経営していたほか、昭和六〇年一一月九日に有限会社ノース商会を設立してその代表取締役となつていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右ゲーム喫茶営業店舗の借入名義人を他人とし、あたかも他人が経営者であるかのように装うとともに、その売上金の一部で仮名預金を設定するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五九年分の総所得金額が三六七五万三七三六円であつたにもかかわらず、同年分の所得税の申告期限である昭和六〇年三月一五日までに、横浜市中区山下町三七番地九号所在の所轄横浜中税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もつて不正の行為により、源泉徴収税額五七七一円を除いた昭和五九年分の所得税一六三八万五七〇〇円(別紙ほ脱税額計算書昭和五九年分欄記載のとおり)を免れた

第二  昭和六〇年分の総所得金額が一億六三七五万七八六円であつたにもかかわらず、同年分の所得税の申告期限である昭和六一年三月一五日までに前記税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もつて不正の行為により、源泉徴収税額六万二七二〇円を除いた昭和六〇年分の所得税一億二二五万三六〇〇円(別紙ほ脱税額計算書昭和六〇年分欄記載のとおり)を免れた

第三  昭和六一年分の総所得金額が一億四〇三六万三七八九円であつたにもかかわらず、同年分の所得税の申告期限である昭和六二年三月一五日までに、前記税務署長に対し、所得税確定申告を提出しないで右期限を徒過させ、もつて不正の行為により、源泉徴収税額四六万六九二九円を除いた昭和六一年分の所得税八五四八万九〇〇〇円(別紙ほ脱税額計算書昭和六一年分欄記載のとおり)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和六二年四月二四日付、同年五月一四日付、同年七月一四日付、同年九月一四日付、同年一一月六日付、同月一三日付、同月一四日付、同月一五日付け及び同月二二日付各質問てん末書

一  竹内文枝の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一  菊地敏章の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の現金調査書、預貯金調査書、貸付金調査書、造作調査書、ゲーム機調査書、車両調査書、什器備品調査書、繰延資産調査書、保証金調査書、出資金調査書、有限会社ノース商会勘定調査書、事業主勘定調査書、買掛金調査書、未払金調査書、借入金調査書、預金利息調査書、給与収入調査書、給与所得控除調査書、給付補てん金調査書、貸付金利息調査書、譲渡収入調査書、譲渡経費調査書、譲渡所得特別控除調査書及び事業収入調査書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和五九年一月一日至昭和五九年一二月三一日と記載のあるもの)

一  大蔵事務官作成の所得税額計算書(昭和五九年分)

判示第二、第三の事実について

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和六二年一二月一日付質問てん末書

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和六〇年一月一日至昭和六〇年一二月三一日と記載のあるもの)

一  大蔵事務官作成の所得税額計算書(昭和六〇年分)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和六一年一月一日至昭和六一年一二月三一日と記載のあるもの)

一  大蔵事務官作成の所得税額計算書(昭和六一年分)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に各該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑の併科刑を選択し、いずれも情状により同法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五状一項を適用して、この裁判確定の日から四年右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、ゲーム喫茶を経営していた被告人が、右ゲーム喫茶の営業が警察等に発覚することをおそれたことや、その収益を手元に備蓄するため、右営業店舗の借入名義人を他人名義としたうえ、その収益は、被告人が手元に集め、公表帳簿を全く作成せず、すべてを秘匿して仮名預金としたほか、貸付金、株式取得代金に充てるなどし、三年度にわたつて全く申告せず、納付すべき所得税合計二億四〇〇〇万円余りを免れたというものであるところ、その動機において酌量すべき事情は認められず、ほ脱額も巨額で、ほ脱率も無申告一〇〇パーセントというものであること等からみても、その犯情は悪質であり、脱税犯が公正かつ衡平な租税負担を阻害し、申告納税制度のもとでは誠実な一般納税者の納税意欲を失わしめるなど、社会的影響が大きいことにかんがみれば、被告人の刑事責任は極めて重大であつて、実刑相当とも思われる事案である。

しかしながら、被告人は同種前科はなく、業務上過失傷害罪による罰金前科が一回あるに過ぎないこと、ほ脱した所得税本税は前記仮名預金債権等の充当により既に納付済みであり、重加算税、延滞税についてもその一部が既に納付されており、未払分も、被告人が経営する有限会社ノース商会に対する被告人の貸付金の回収等により鋭意納付する予定であること、右有限会社ノース商会は、被告人を欠くことになればその経営が困難になると、被告人の本件犯行は、当初から全く申告する意思がなく、収入のすべてを秘匿していたという点において強い非難を免れないが、その秘匿方法は、その収入のすべてをただ単に自分の懐に入れ、申告しなかつたというもので、二重帳簿を作つたり、所得の発見を妨害する意図で積極的に隠蔽するなどの悪質なものとは認められないこと、被告人は国税局の査察を受けた段階から率直に本件を認め、本件脱税の主たる原因となつていたゲーム喫茶の営業を廃止するとともに、捜査に協力し、この間の取得の全容がほゞ捕捉され、これに対する処分もなされていること、当公判廷においても反省の情を示していること等、被告人に有利な斟酌すべき事情も総合して勘案すれば、被告人を今直ちに実刑に処するよりは、今回に限り懲役刑の執行を猶予し、主文掲記の罰金刑に処してその反省と自戒を促したうえ、社会内において、更生する機会を与えるのが相当であると判断した。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田恒良 裁判官 山本博 裁判官 竹田光広)

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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